概要
本研究室ではトリフェニルメタン誘導体を用いて、光に応答するシステムの構築を目指して研究に取り組んでいます。光は集光することができるため、微小なターゲット領域で反応を起こさせる外部刺激として優れており、遠隔操作も可能で取り扱いが簡単という利点を有しています。両親媒性分子が形成するミセルやベシクルなどの分子集合体を光で制御することで、物質の取り込みや取り出しをコントロールすることができます。また光で反応する分子を用いて、核酸との結合を誘起させる研究も行っています。
研究キーワード
光応答、両親媒性分子、分子集合体、薬物送達、高分子化合物、核酸、分子認識
Ⅰ 分子集合体の制御
界面活性剤のような分子内に親水基と疎水基を有する両親媒性分子は、表面や界面への吸着、界面膜の形成や配列、表面張力の減少、会合体の形成といった性質を有するため、洗浄や乳化、殺菌などの機能をもたらし古くから人々の生活における広範囲のシーンで利用されてきました。さらに、溶液中で会合し形成された両親媒性分子により形成される膜、ベシクル、ミセル、マイクロエマルションなどの分子集合体は、超分子化学にも大きく関係しています。本研究室では、紫外光で親水基の極性が変化するトリフェニルメタン誘導体を開発し、ミセルや逆ミセル、ベシクルの性質を光で変化させ、物質の取り込みや取り出しをコントロールすることができました。
中でもベシクルはリン脂質で構成される二分子膜で作られる小胞体であり、生体適合性に優れた薬物カプセルとなり得ます。ベシクルにおいて観られた光膜融合を展開させ、光薬物送達の研究を行っています。生命科学分野へのアプリケーションが目標です。
Ⅱ 核酸と結合する光イオン化トリフェニルメタン誘導体
デオキシリボ核酸は負に帯電する傾向にあり、正電荷をもった有機化合物と結合することができます。トリフェニルメチルカチオンは核酸と結合可能な分子の1つであります。紫外光照射によってトリフェニルメタン誘導体は中性からカチオン性分子となるため、暗時では結合しませんが、光照射後は核酸と結合することができます。この光イオン化反応を利用し、本研究室では光照射で核酸のコンフォメーションを変化させることや酵素分解反応を抑制させることを実現しました。
二重らせんDNAだけでなく、特殊な核酸の構造であるグアニン四重鎖を用いた研究も行っています。グアニン四重鎖はプロモーターやテロメア領域で重要な役割を担い、がん治療のためのターゲット構造として注目されています。本研究室では、トリフェニルメタン誘導体を側鎖にもつ高分子を開発し、グアニン四重鎖への結合を光で促進させることができました。
Ⅲ クラウン化トリフェニルメタン誘導体による金属イオンの分離と検出
クラウンエーテルはその空孔内にアルカリ金属イオンを捕捉することができる分子であり、アルカリ金属イオンと錯形成するときに顕著なイオン選択性を示します。本研究室では、トリフェニルメタン誘導体にクラウンエーテル環を3つ有する分子を合成し、セシウムイオンとの錯形成を実現しました。また、光による金属イオン錯形成能の変化に加えて、セシウムイオンとの錯形成は紫外域の吸光度を変化させることが分かりました。